選挙時期、激化するSNS・ネット上の怪しい動き

 今週末の7月21日、第25回参議院議員通常選挙の投開票を迎えます。今回の選挙でも景気や消費税、憲法改正、国際情勢などさまざまな争点がある中で、各候補が街頭のアピールやさまざまなメディアを通して、有権者に政策を訴えています。ではあなたはしっかり、「自分の頭で」投票先を選ぶことができているでしょうか?

 2013年の公職選挙法改正で日本でもネット上の選挙運動が解禁されて以来、SNSなどでの選挙期間中の政策アピールを目にするようになりました。最近では積極的にネットやSNSを活用する政党や候補者が増え、私たち有権者にとっても、政治が身近になったのは確かです。

 一方でネット・SNSならではの懸念点として、デマやフェイクニュース、誹謗中傷の応酬により、有権者が混乱させられ、判断が左右されるリスクがあります。さらに2016年アメリカ大統領選での「ロシアゲート」疑惑をはじめ、ネット世論やハッキングを通じて国政選挙に第三国が介入したのではないかという疑惑も多々報じられています。私たちも国政選挙を迎えるにあたり、「何が真実なのか」を冷静に判断し、情報を取捨選択する視点が求められています。


何が「真実」で何が「嘘」なのか──

 トランプ現大統領が勝利した2016年のアメリカ大統領選は、SNSでの選挙戦が大きく注目されるようになったターニングポイントです。支持者らによる積極的な情報共有と、そこに含まれた虚偽情報の多さから、「フェイクニュース」「オルタナティブファクト」などという言葉も一般に広がりました。主要なプラットフォームとなったFacebookは、何年にもわたりフェイクニュース対策に頭を悩ませることとなったほどです。

 一口にフェイクニュースといっても、その中には、偽のニュースサイトに誘導して小金を稼ごうとするもの、SNS上のデマ情報、国家規模の情報工作まで、大小さまざまなものが含まれています。さらに、(少なくとも結果的には)これらの恩恵を受けた格好のトランプ大統領は、就任後に批判するメディアを「フェイクニュース」と呼ぶなど、その定義はいっそう曖昧な状況になってしまいました。

 たとえニセの情報でも、SNS時代には共有回数とともに信じる人が増え、世論が誘導されてしまいます。アメリカ以外でもフランスなど複数の国の国政選挙の際、フェイクニュースや対立陣営への攻撃、不審なアカウントの増加など、ネット・SNSの不自然な動きが観察されました。

 その影には国家レベルの情報工作があるといわれます。現代では国家間の戦いは、「ハイブリッド戦」──現実の軍隊や諜報活動に加えてサイバー攻撃、SNS、フェイクニュースなどさまざまな情報メディアを駆使した新しいタイプの戦争──になっており、ロシアや中国といった国々を中心に、世界中でネット・SNSを含めた作戦が展開されているのです。誹謗中傷をまき散らし、極論を主張するフェイクニュースサイト、SNSアカウントの中にも、そうした情報工作が疑われるケースもみられます。

 すべてではないにしろ、私たちがネット・SNSで触れる情報の中には、意図的な誘導を仕掛けているものがあるのです。


人間の「認知のくせ」が悪用される

 1人のユーザーの立場で知っておきたいのは、現在のSNSやウェブサイトは、時に情報の偏りを拡大するよう働くということです。SNSでつながりやすいのは、親しみを持ちやすい相手、つまり自分と似た人たちです。しかしいつも自分と同じ意見に囲まれて、「いいね」する・される生活が続くと、知らず知らずのうちにより主義・主張が過激になっている場合があります。これを「エコーチェンバー」といいます。

 またSNSやウェブサイトでは、関心のある情報を優先的に表示されるアルゴリズムが一般的になっています。逆に関心のない情報を目にする機会が減りますから、これも人の見方を一面化させるように働きます。これが「フィルターバブル」といわれる現象です。とりわけSNSではきわどい投稿やフェイクニュースが、エコーチェンバー、フィルターバブルの中で反響することにより、世論の分断を招くことになります。

 “ヒットする”フェイクニュースは、ある意味での魅力を持っているのも確かです。大げさなタイトルや、あることないことのスキャンダル、読み手にとって虫のいい情報を強調するなど、心理トリックを用いて受け手の心の隙間をくすぐってくるのです。例えばロシア系の「Sputnik」「RT」といったウェブメディアが、本当のニュースの中にフェイクニュースを紛れ込ませる手法をとっているのも、「あの手この手」の一環といえるでしょう。

 また冒頭に挙げた米大統領選の際は、敗れた民主党陣営は、開票が始まるまで楽観論が支配的でした。もしかすると、自陣営に都合のいい情報ばかりを見て、情勢分析を誤っていたのかもしれません。

 これから投票する側としても、一層しっかりとした判断をしなければ、無自覚なうちに誘導され、本来は選ばなかったであろう投票先を選んでしまう危険がありそうです。


投票前に、最後の見直しを

 SNSの特性や、ネットを介した世論操作の洗練化が進む中で、ネットユーザーに求められるリテラシーは一昔前に比べて高くなっているといえます。
特に選挙期間には、政治的な誘導をかけようとする情報発信が増える可能性があることを知っておくことが大切です。投票先などの判断を自分がしっかり行っているか、なるべく熟考する時間を取ったり、友達や家族と話し合ったりしながら客観的な視点を保つよう心掛けましょう。

 フェイクニュースやSNS上のデマ情報については、新聞などの既存メディアのほか、バズフィードジャパンねとらぼといったネットメディア、ファクトチェック・イニシアティブといった団体など、誤情報の有無を精査する「ファクトチェック」を行い、発信する取り組みが増えてきました。特に選挙や政治、政策関係のファクトチェックは、平等性や発信者の立場などに注意する必要はありますが、こうした情報も判断の参考になります。

 今どんなことが起こっているかを知り注意を心掛けることは、時代に合ったリテラシーの第一歩です。フェイクニュースやデマを見抜くためのポイントをリストにしましたので、投票所に足を運ぶ前に、最後の見直しをしてみてはいかがでしょうか。

●「ミスリード」「根拠不明」に気付く

  記事はタイトルや冒頭だけではなく、全体を見て信憑性の判断を。じっくり読むと、大げさなタイトルで読者を煽っていたり、不正確・不整合な記述、全く異なる事件の写真を転用している……といった怪しい内容に気付くことがあります。

●情報ソースを確認する

  ニュースの記者や提供会社は、信頼できる相手でしょうか。少し調べるとデマ情報を発信した“前科者”や、実在の怪しい団体と分かるかもしれません。

●フィルターバブルや心理トリックのワナを理解する

  悪意のある人物がミスリードさせようとする手口を知っておくことで、フェイクニュースを見抜ける可能性が高まります。

●ファクトチェックに関心を持つ

  ファクトチェックを行っているメディアを知っておきましょう。また今後のために、どのメディアのファクトチェックが信頼できそうか、日頃から関心を持っておきましょう。

●すぐに判断しない

 真偽が分からないときは、その場での判断を留保するのも大切です。情報に“触れっぱなし”ではなく、情報から離れる「デジタルデトックス」をして、客観的な視点に返る時間があると良いでしょう。

著者:マカフィー株式会社 CMSB事業本部 コンシューママーケティング本部 執行役員 本部長 青木 大知