スマホやパソコンから家電、掃除ロボット、街のインフラ、さまざまなシステムまで、私たちの暮らしの中に、AIやIoTといった最新ITが広く用いられるようになりました。いわばITは社会的な“必修科目”で、誰もがある程度のリテラシーを持たなければならない時代となりつつあります。
そうしたなかで、教育においては「STEM」教育が注目されています。STEMとは科学やコンピューターの学習を取り入れた教育を指し、特に2000年代以降、世界中で重視されるようになっています。日本でも2020年度から小学校でのプログラミング教育が必修化される予定です。
いっそう高度化するAI・IoT時代に生きる子どもたちが、生活を充実させていくために、またセキュリティを確保してプライバシーを守っていくために、STEMは大切なスキルを教えてくれるものになっていくでしょう。
しかし大人世代の中には「本当に今STEMが必要なの?」「昔習ったのとは違う新しい学習を、どのように見守ればいいの?」と、疑問や不安を持つ人もいるのではないでしょうか。今回は、STEMを基礎から解説します。
1. STEMってどんな意味?
STEMとは、「Science(科学)」「Technology(技術)」「Engineering(工学)」「Mathematics(数学)」の頭文字をつなげた略称です。基本的に理数系の基礎教育を重視した教育方針といえますが、STEMに「Art(芸術)」を加えた「ATEAM」や、「Ecology(環境)」を加えた「eSTEM」なども提唱されています。いずれにしても、領域をまたいで知恵を活用するためのカリキュラムといえるでしょう。
その前身は、1990年代のアメリカで提唱された、科学・数学を重視した教育「SMET」に由来するといわれています。これがオバマ前大統領の教育政策のなかで「STEM」として推進されるようになりました。以後、世界のさまざまな国で同様の政策が取り入れられるようになっています。
STEMの教育方針は、ただ知識を身に付けることを目指すのではありません。さまざまな分野の知識を横断し、学んだことを応用し、変わりゆく現実社会の中で生き抜いていく力をつけることが目指されているのです。
2. 日本でもプログラミング教育が必修化へ
日本のSTEM教育は、一部の先進的な学校では早くから取り入れられていたものの、本格的なプログラミング教育は2020年から。国全体としてみればまだこれから始まる状況といえます。
もちろん学校でプログラミング教育を受けるからといって、全員がプログラマーやエンジニアになるわけではありません。それは国語を習っても小説家になる人はごく一部ですし、算数が得意だからといって数学者になるわけではないのと同じです。ただ基本的な読み書き・計算は、日々の仕事や買い物に欠かせません。プログラミングの基本を知っていることで、IoT時代の仕事や生活、趣味のさまざまな場面で有利に進むことがあるのです。パソコンの使い方だけではなく、プログラミングのスキルがあるからこそ、システムをすばやく理解して、利点やどこにリスクがあるのかなどを判断することができるようになります。
またプログラミングして1つのサービスを作るためには、どんな画面デザインで、どんな文章を表示して、どんな人に使ってもらうのか……と、複数分野の知識を総合していく力が求められるでしょう。自分なりに工夫しながらリテラシーを高め、自分の個性に応じて、論理思考、豊かなアイデア、作り上げた喜びなど、今後求められる力を伸ばすツールにもなる可能性を秘めています。
3. セキュリティの「常識」も大きく変わる
カフェで仕事のメールをやり取りするようになったり、スマホで民泊を予約したり……。今の大人世代は急速なITの進化を経験するなかで、新しいIT技術があるからこそのトラブルも目にしてきました。同じように、子どもたちが成長する頃には思いもよらない技術・サービスが普及して、セキュリティの「常識」も大きく変わっているはずです。
安全にITを使うには、技術的なスキルだけでは不十分です。まずはどんな危険やリスクがあるのかを知らないといけません。そして危険な行為を避け、道徳的に正しい判断ができる心の教育も必要となります。特定の技術を学ぶだけではないSTEMの時間は、そうした経験や道徳教育の場にもなります。 学校で、家庭生活の場で、また就職時に求められる能力として、今後、STEMで学んだスキルはいっそう求められていくでしょう。教える側になる先生や親も、技術の知識やリスクの判断力、道徳面をより深めておきたいところです。
家庭では、親自身がプログラミングや科学を教えなくても、身近に接する機会を作ることから始めると良いのではないでしょうか。例えば市販の子ども向けプログラミングソフトやSTEM関連の教材、民間の教室も登場しています。そんなサービスをうまく取り入れ、親子で楽しみながら、一緒に知識を身に付けてみてはいかがでしょうか。
著者:マカフィー株式会社 CMSB事業本部 コンシューママーケティング本部 執行役員 本部長 青木 大知